ここに「困っている」と訴えている人がいる。
「困っている」といっても、それには一般的基準がないから、その人の「困っている」がどれほどの度合いなのか分からない。
ただ、どんな場合でも、その人が「困っている」と言う限り悩みであり、メンタルケアの対象である。
ある両親からこんな相談があった。
「30代後半の長男が引きこもっている」
その長男と会って話をしてみると
好きに車を運転して遠出はするし、たびたび東京にも遊びにいくという。
家は旧家で大きな御屋敷に住んで日常の衣食住に不足はない。
山があり、借地もあって、蓄財もある。
ついこのあいだまで、父親は地域の名士として仕事をしていたので、これからの生活にも困らないだろう。
要するに、仕事をしないだけなのである。
両親が引きこもりと呼ぶ(私にはそうは思えない)息子自身は、実は全く困っていない。
子供のころから困る状態で過ごした事もなく、将来の心配をしている気配もない。
こうなると残念ながら長男はメンタルケアの対象ではない。
メンタルケアは「困っている人を助ける」ことが目的だから
どんなに手をつくそうが、本人が困っていなければメンタルケアは必要ないのだ。
この相談で本当に困っているのは両親なのだろう。
ところが両親は、解決しなくてならないのは長男の行動であり、長男さえ心を入れ替えてくれれば、あるいは人並みにしていてくれれば、すべて良くなるに違いないと思い込んでいるように思える。
こういう問題が見えてきたのは両親が私に相談してくれたからである。
もし今、悩んでいる人がいて、挙句の果てに専門医に行こうとしているのなら、
その前にメンタルケアを受けてみたらどうだろう。
薬で矯正する前に、視点を変えるという方法もあるということを知っていてほしい。